第26回公判(2017/05/15)弁論更新(2)桑田弁護団の意見陳述
前回に引き続き桑田弁護団による意見陳述の概要を記します。(桑田)
桑田弁護団の意見陳述の概要
弁護人:高見秀一(主任)、我妻路人
1.松村泰志(大阪大学医学部附属病院医療情報部教授)証人の証言
- 国立循環器病研究センター(国循)が、平成24年度、25年度、2つの調達とも、政府調達協定の手続どおりにしていなかった*1が、大阪大学では、そういうことは決してあってはならないこととして厳しく規制されていること、今回の事件について、本来の手続をしていたら、こんなことには恐らくなってなかっただろうと感じ非常にショックを受けたこと。
- 意見招請とは、企業側がこの仕様要件をもう少し緩和してほしいなどと意見を言う機会であり、そういう意見があった場合には、その仕様内容を緩和するなど検討して、しっかり入札に応じていただけるようにするという手続であること。
- 意見招請の手続が行われていれば、入札に参加したい業者はそこで意見を言えるし、 そもそも一者のみ関与が問題だというような問題設定が起こりえないこと。
- 桑田さんのような現場責任者がすることは、その現場の業務が回るように、どういう業務をしてほしいとか、どういうシステムを作ってほしいという目線で要件を定めていくというものであること。
- 業務委託の仕様書案を作成する際、現行業者にヒアリングをせずに仕様書案を作成することはできないこと。
- 入札参加を考えている業者から、現行どのような体制でやっているのかについて質問を受けた場合、それに答えることは、まったく問題はないこと。
- 公的な機関であれば、受注企業に公平な機会を与えて、なるべくたくさん参加できた方がよいと思うが、他方で、現場の運用を犠牲にするという考えにはならず、現場がしっかり回る、安全性をしっかり確保するということが、第一義の目的であること。
- 医療情報システムの発注者として、運用保守の業務の中に「プログラムの改修と機能の追加を行う」と入れることは不適切ではないこと。
- 「病床数500床以上の複数の医療機関において、病院情報システムのThin-Client Computing(サーバ仮想化、デスクトップ仮想化) の構築経験があり、かつセンターの病院情報システムとの連携に必要とされる技術や知識を有する技術者を複数名従事させる」という要件は、全く過剰ではなく、逆に、この要件がなく経験がない技術者が来たら、おそらく、国循センターのシステムは停止するなどの事態が起こっていたであろうこと。
- 競争性が損なわれるからという理由で、仕様書に必要な要件を記載することができなくなれば、その結果、特に公的機関は、新しい技術を書き込めないことになり、企業も、新しい技術を習得しなくてもいいということになってしまい、結果的に日本全体の停滞を起こしてしまうこと。
2.黒田知宏証人(京都大学医学部附属病院医療情報企画部教授)が証言したこと
- 京都大学では、政府調達の基準に該当する入札について、 仕様策定委員会が開かれないということはあり得ないこと。
- 政府調達の手続のガイドラインにのっとらないで入札手続をするということは、京都大学ではありえないこと。
- 政府により定められた基準を守らないということがあるとすれば、それは事務組織、もしくは、そのルールにのっとることを約束した大学本体、総長のどちらかの責任だと考えるのが普通であること。
- 業務委託などの役務の調達の場合、仕様書の作成の際、基本的に現行業者からヒアリングをすること。
- 入札参加予定の業者から、現行の業務をどうしているのか見せてくださいと言われた場合、見せなければ妨害になるので、必ず見せること。
- 入札の対象が、システムの改修ということではなく保守であっても、対象システムの製造、販売元業者が入札に参加する場合は、その業者が有利になってしまうこと。仕様書に改修と書いたほうが、保守と書くよりも、当該業者に有利になるわけではないこと*2。
- 4月1日から保守業務を行わなければならないことになる落札業者が、1月末日の時点で、保守の対象となっているシステムの開発業者との間で、まだ保守の外注契約ができていないような場合に、落札業者に保守の履行の確約を求めることは当然であること*3。
- NCVCネットの仮想化業務を行う業者に、病院情報システムの構築経験を求めたことは、合理的であること。
- 入札を行う際に複数の業者が参加できるような調達方法を考えるべきかという点について、この機能がないと病院として機能が落ちると考えるのであれば、そのために特定の業者しか応札できなくても、 当然求める機能は求めるべきであること。
3.山本晴子証人が証言したこと
- 4階層の仮想化システムによって、セキュリティと利便性の両立が可能になったこと。
- 桑田さんが着任した23年9月時点での国循の電子カルテ導入の進捗状況はきわめて思わしくなかったこと。桑田さんでなければ24年の1月からの導入はほとんど無理だったと思われること。
- スポットファイヤー(Spotfire)は、山本晴子証人がいた部署で必要だと判断して、医療情報部の桑田さんに導入してほしいということを依頼したものであること。
4.桑田成規氏が供述したしたこと
- 平成24年3月12日の週かその前の週に、ダンテックの高橋氏が国循に来て、「サーバ室に置いてある機器については見学で把握が出来たが、どういう業務を、どれだけのボリュームをこなしているかが分からない、具体的に業務量が分からないので常駐のエンジニア、どんなレベルの人がどのような専門性を持っていて、どういう業務担当をしているのかを知りたい」という話をされたこと。高橋氏に対して、体制表のようなものであれば提供できると言ったこと。
- その後、国循の事務方に、現行の業務体制表の提供を依頼したこと。
- 平成24年3月19日(入札当日)の朝、国循に出勤すると、机の上にNECの体制表が置かれていたこと、その体制図には2012年3月時点と記載されていたこと。これが事務方に依頼していた体制表だと思い、高橋氏にメールで送付したこと。
- 平成25年度の入札で、Thin-Clientの構築経験を求めた理由は、鳥取大学に在籍していた時代にThin-Clientの構築に非常に苦労したという体験があり、それなりの経験を持った人にやっていただかないときちんと稼働に至らないだろうという懸念があったからであること。
- 複数の病院での構築経験を求めた理由は、複数であれば、少なくとも2回頼まれたということであり、1回はそれなりに出来たのだろうと分かると考えたからであること。
- 病院情報システムでのThin-Client Computingの構築経験を求めた理由は、医療技術者がその仕組み、アプリケーションをどういうふうに使うかという点で、 仮想化システム上で不具合が出たり出なかったりするため、病院情報システムをどのように使うかを分かっていなければならないからであること。
- 500床以上の病院という要件について、病床数を基準にした理由は、病院システムは病床数によって複雑さや規模が変わるからであり、500床というは、国循が612床であるという理由であること。
- 新利用者管理システムの機能の追加や改修についての要件を加えた理由は、NCVCネットに変更が加わるなど新たなシステムが追加されるとなったときに、必ずと言ってよいほど新利用者管理システムにも手を入れなければならなくなり、逐一発注するというのは非常に大変だろうと考えたからであること。
- 涌島氏から、病床数について800床にする提案があったが、不要と考えて採用しなかったこと。
- 涌島氏から、国立病院での構築経験を要求するという提案があったが、ナンセンスであると考えて採用しなかったこと。
*1:WTO政府調達協定によれば、80万SDRを超える調達については意見招請の手続きが必要とされる。
*2:検察官は、ダンテックの製造したシステムの「改修」を仕様書の要件に加えたことが、ダンテックのみに有利になる条件であると主張している。黒田氏の証言は、保守であろうと改修であろうと製造元業者が有利になってしまうの避けられないし、「保守」でなく「改修」と書くことで製造元業者がより有利になるわけではないという意味である。
*3:検察官は、システムスクエアの履行能力審査において、桑田氏がシステムスクエアに対し、ダンテックの開発した利用者管理システムの保守の履行を求めた点が、入札の公正を害する行為であるとしている