控訴審第1回公判期日後の記者会見内容(2019年1月24日)

【冒頭説明】

(郷原)

主任弁護人の郷原です。今日,桑田さんの控訴審の第1回の公判が開かれました。控訴審ということで,公判の場では,なにが起きているかよくわからないと思いますので,こういう形でご説明した方がよいと思った次第です。最初に桑田さんの方から一言お話をいただきたいと思います。

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(桑田)

昨年3月に第1審の判決を得まして,結果としては有罪判決となってしまったわけですけれども,今回,それが不当な判決であると思い,控訴いたしました。詳しい趣旨については,後ほど,主任弁護人の郷原先生からお話がありますが,私の気持ちといたしましては,この事件の問題は,私個人の名誉の問題ではなく,むしろ,医療情報システム,つまり病院の中で動いているコンピュータシステムの発注に関して,業界で通常行われていることや,行わなくてはならないようなことに至るまで,全く裁判所に理解されなかったという点を,是非,正さなければならないというところにあります。とくに,国循のような先端医療を担う施設においては,その情報システムも当然に高度なものであるべきであって,そのために必要な発注をしているという,ただそれだけであるにもかかわらず,それが罪に問われた。しかも,その背景となる入札制度や関連法規について,十分に検討されないままに判決が出されてしまった,というところに大変憤りを感じています。

(郷原)

私は,この控訴審から,桑田さんの弁護を引き受けることにしました。私自身,これまでも検察と全面的に戦う事件の弁護を担当してきましたが,桑田さんの事件も,検察,しかも特捜部の事件で,弁護人として検察と戦うべき事件であると考えましたし,今,桑田さんがいわれたように,この事件はその判決結果が,医療情報システムのみならず,情報システムの発注全体にも関わる非常に社会的影響の大きい事件であると考えました。それだけに,この事件には,控訴審からですけれども,私なりに全力で取り組んできたつもりです。

1審では審議にかなり長い時間がかかったので,記者の方々も,最初の段階のことはあまりご存じないと思います。この事件は,大まかな流れで言うと,明らかに,大阪地検特捜部は贈収賄のような事件を狙って,まさに今回当事者になったD社と桑田さんとの間の「癒着のようなもの」を刑事事件にしようという考えで,強制捜査に入ったことはほぼ間違いないと思います。なぜ彼らがそういう見方をしたのかといえば,おそらくその背景には,桑田さんは,前任の鳥取大学医学部の病院で,電子カルテの導入という難しい仕事を成し遂げて大きな成果を上げ,非常に期待されて国循の医療情報部長になった人です。桑田さんとしては,できるだけ合理的,経済的に病院の情報システムの発注をしようと考えて,それまでずっと国循で業務を受注していた企業による,情報システムの「独占状態」をなんとかしたいという思いを持ち,新規参入業者にもその情報システムの入札に参加させ,対等な条件で受注競争ができるようにということを考えてやったことが,結果的に,それまでずっとその業務を独占していた会社の側から快く思われなかった,あるいは,それまで国循内部で情報システムの発注を担当していた,いってみれば「ぬるま湯に浸かっていた」人にも快く思われなかった。このようなことが背景となって,いわゆる癒着のようなものが,あたかも事件であるような認識で,大阪地検特捜部が捜査に入ったのではないかと思われます。

しかし,実際に調べてみると,そういう癒着・腐敗というような事実はなにもなく,ましてや刑事事件になるようなものはなにもなかったわけです。以前,大阪地検の証拠改ざんなどの不祥事があったときに,私も検察のあり方委員会に加わって色々議論しましたけれども,本来ならば,あのとき検察が言っていたような「引き返す勇気」というのを彼らがしっかり持って,引き返さないといけない事件だったと思うのですが,大阪地検特捜部は,いったん取りかかった以上はなにがなんでも刑事事件にするというような方向で,結局,桑田さんを,いわゆる官製談合防止法違反で逮捕するということに至ったわけです。

今回,起訴された事実は,大まかにいうと3つあります。

1つ目は,初年度の入札での情報提供の問題です。企業が,情報システムの運用保守の受注を狙って入札に加わろうと思うと,どういう体制でその業務を行うのかがわからないと,なかなか適切に費用の積算ができないのです。その点,既存業者は,当然よくわかっているのだけれども,新規参入業者にはまったくわからない。そこで,競争条件を対等にするためには,新規参入業者も含めて適切にそのような情報を提供しないといけないということで,桑田さんは情報提供をした。これは,ちょっとした間違いがあった可能性もあるのですけれども,結果的に,本来,公式に提供しないといけない情報を,非公式に提供してしまったということがあった。この点は,若干,問題があったということは否定できない。ところが,この事件では,それまでその業務を受注していたN社が入札参加に当たって国循に提出していた情報を,桑田さんが意図的に新規参入業者であるD社に提供したと捉えられてしまった。それは桑田さんの認識と全く反していたのですが,そこが1審では最大の争点になってしまったのです。ただ,本当は,この事件で争うべき重要な点はそこではありませんでした。

2つ目は,翌年度の入札での仕様設定の問題です。桑田さんが着任後にその業務を受注したD社が,翌年,また同じ業務を受注するのですけれども,そのときに桑田さんが設定した入札の仕様について,桑田さんがD社に特に有利な設定を意図的にしたと言われた。

3つ目は,「お付き合い入札」の問題です。次の入札をするときに,D社以外に受注意欲をもった業者がいなかった。そのままだと,1社のみ参加する入札(1者応札)となってしまう。国循の契約係,つまり契約の担当者というのは,1者応札を非常に嫌うのです。1者応札というのは,後々,契約監視委員会などで問題にされることがあるので,そこで,契約係は,できるだけ1者応札にならないようにしたいということで,全然受注意欲のない会社にお付き合いで入札に参加してもらったということがあり,そこに桑田さんが関わったかどうかということが問題になったのです。

大まかにいうと,以上のことがこの事件の中で問題になったのですが,ここで適用された,いわゆる官製談合防止法というのは,比較的最近になって罰則が強化された法律で,ほとんどこれまでこういう事例に対して適用されたことがない法律なのです。今日も,官製談合防止法違反の疑いで,大阪地検特捜部が大阪市役所に捜索を行っていると報じられていましたけれども,今までこういうようなタイプの事件で問題になってきたのは,予定価格を漏らしたとか,最低制限価格を漏らしたとか,価格の漏示なのです。ところが,今回の事件はそうではなくて,入札におけるやり方,仕様の設定とか,そういう情報の提供とか,まさに入札に対応する行為の根幹部分のところが,特定の業者に有利なように便宜を図ったという疑いで法適用がなされたということなのです。

しかし,これについては,特定の業者に便宜を図る目的ではなくて,公正な競争の条件を作り,そして,国循という組織の医療情報システムの発注を少しでも経済的・効率的に,いいものを作ってもらおうと思った,と桑田さんは一貫して主張しているわけです。ただ,そういう複雑な情報システムの発注をめぐる問題であるということと,法律解釈が非常に微妙な問題であるということから,1審ではなかなか争点がうまく整理されないまま,結局,さきほど言った,その前年までずっと受注していたN社の「秘密」である体制表を,意図的にD社に提供したのかどうか,そういう認識を持っていたのかどうか,というところだけが主たる争点として取り上げられました。その部分について,桑田さんに不利な証拠がそろえられていたことから,1審では有罪認定してしまった。それで,残念ながら,最大の争点が有罪となってしまったために,他の点もあたかも桑田さんがその業者が有利になるように計らったかのような捉えられ方をされてしまったというのが1審の経過でした。

控訴審では,そこのところを少し整理して,情報システムの発注と法適用についてなにが重要なのかというところを改めて検討しなおして,控訴趣意書としての主張を組み立て直しました。ここでは,その中で,今日の第1回の審理で一番言いたかったことについて少しお話しておきます。

桑田さんが問題にされた行為,すなわち情報提供の問題や仕様設定の問題については,そもそもそのような問題が生じないようにする手続きがあるのです。大型の発注,とくに情報システムの発注については,意見招請という手続きをやりなさい,ということが国際協定で義務づけられているのです。どういうことかというと,入札公告前に,その仕様設定などの入札条件について,意見がある人は出してください,質問があればしてください,という手続きなのです。そういうことをやらないと,なかなかこういう情報システムの発注で公平な入札の条件が作れないからなのです。これは国際協定上,絶対に不可欠なものなのです。

ところが,国循では,桑田さんが着任するまで,長年,N社が独占している状態で,その手続きを全くとっていなかった。契約担当者が勝手に決めた入札の条件,仕様でやっていたのです。これについて,1審では,京都大学や大阪大学の医療情報部の教授,この分野の最先端の先生たちが証言に立ち,「ありえないことだ」「信じられないことだ」と言っています。まず,この事件は,そこに根本的な問題があるのです。これが正しく行われていたら,そもそも桑田さんが業者に情報提供をする必要がなかった。仕様の設定についても,桑田さんが必要だと考えて設定した仕様に,もし問題があるのだったら,当然,意見招請の手続きのなかで客観的な検討が行われていたはずです。ということで,本来,その手続きが取られていなかったことが問題なのではないかということを,1審から弁護団は強く主張してきたのです。

ところが,非常に不可解なことに,この意見招請の手続きが本来必要であったのに,それが取られなかったということを,検察は,捜査のなかで隠そうとしたとしか思えない経過があったのです。意図的に調書から除外をしたり,証人尋問のときに,意見招請の手続きが必要だったということをあえて証言させなかったり,というようなことがあり,1審では,これは検察の隠蔽に重大な問題がある,さらに,そもそもこの意見招請の手続きがなかったこと自体が問題で,だから,桑田さんには犯罪が成立しないのだという主張までしたのです。ところが,それに対して検察官は,弁護人が最も強くした主張であるにもかかわらず,論告でまったく触れませんでした。無視です。そして,論告で一切触れられていないのに,なぜか裁判所は,その犯罪の成立が否定されるという主張も,隠蔽という主張も,ごくごく簡単な理由で排斥したのです。

その点を,我々は控訴審の段階で再検討しました。専門家の意見によれば,意見招請の手続きがないということだけで,犯罪の成立が完全に否定されるかというと,その手続きがなくても,まだ若干の公正さという部分が残っているといえるので,犯罪の成立がまったく否定されるとまではいえない。よって,控訴審では,そのような主張ではなく,そのことがわかっていたら,そもそも,桑田さんの行為が犯罪として摘発され起訴されるなんてことはありえない,検察官はそういう重要なことを完全に見過ごして,そして逆に隠すような形でこの事件を起訴したのだというところに,起訴の手続きに重大な問題がある,だからその起訴の手続きの違法を理由に公訴を棄却すべきであったのにしなかった点に,原判決には訴訟手続きの法令違反があるという主張をしました。それと同時に,桑田さんについては,完全に無罪というのではなくて,犯罪の成立が否定できない部分が若干あるとしても,これはあまりに軽微で,検察官がこんなものを起訴したこと自体が重大な問題なのだ,やはりこの意見招請の手続きが欠けていたことが重大な問題なのだということを強く主張しています。

ところが,それについて検察官は,答弁書でどういう主張をしたのかというと,1審判決の表現をそのまま引用しただけで,こちらの主張に対しては全く答えていない。そこで,なぜ検察官は,この意見招請の問題について,検察官としての自分たちの意見を言わないのだということを,今回改めて意見書で釈明を求めたわけです。ところがそれに対しても検察官は無視,全くなにも言ってこない。ここまでくると,検察にはこの点についてなにか不都合が事由でもあるのかと考えざるをえません。

ということで,今日,法廷で,口頭で、求釈明をしようとしましたが,検察官が釈明せず,口頭では求釈明できなかったのですが,そこで,まず聞きたかったのはこの点だったのです。意見招請の手続きが欠けていたことについて,なぜ検察官はここまで沈黙するのか。なぜ認否をしないのか。その点について重大な問題があったということであれば,桑田さんは本来起訴すべきではなかった。犯罪の成立が完全には否定できない部分があるとしても,当然,起訴猶予にすべきであったという理由にもなりますから,絶対に無視できない事由のはずです。そこのところは,控訴審でも強く言いたいところです。

結論としては,1審と少し違うのは,第1事実については,犯罪の成立を完全に否定まではできないかもしれないが,少なくとも起訴するような事実ではないということで,本来,起訴手続き自体に重大な違法があり,公訴棄却すべきであったと主張していることです。ですから,1審の無罪の主張と実質的にはほぼ変わりませんけれども,控訴審では,無罪プラス公訴棄却,いずれにしても桑田さんは処罰すべきではない,一切処罰されるようなことをやったわけではないという主張であることには変わりありません。

検察が桑田さんを逮捕し起訴したというのは本当に不当極まりないものだと思いますが,もう一つの大きな問題は,1審判決では,必要不可欠なものしか仕様の設定をしてはいけないという判断をしていることです。仕様の設定というのは,本来,いろいろなレベルがあるわけです。必要があれば,この建物には,この施設にはこのぐらいのものが必要だということを考えて,それを工事の発注で仕様にすることは,本来,担当者の裁量のはずです。情報システムだってそうです。どのぐらいのものを要求するのか,予算の範囲内でどこまでのものを要求するのかは,担当者が判断できるはずです。ところがそれを,不可欠なもの,最低限のものでないと設定してはいけないということを1審判決は言っているわけです。もしそういう一般論が司法判断として確定してしまったら,もう情報システムの発注はまともにできなくなってしまうのではないかということが強く懸念されるところです。

私の説明は以上です。

【主な質疑応答】

(記者)

本日法廷であった,証拠の同意,不同意の内容について簡単に教えてください。

(郷原)

控訴審で,弁護人として一番重要な証拠として提出したのが,上智大学の楠茂樹教授の意見書です。楠教授は公共調達法制の数少ない専門家で,第一人者です。公共調達制度の国際比較や,日本の公共調達法制の歴史といった著書もありますし,入札監視委員会の委員長などの実務経験も豊富です。そこで,その楠意見書を証拠請求したところ,当初,検察官は,不同意と言ってきたのです。こちらは,意見書には客観的には間違いない部分もあるのだから,全部不同意はないだろう,検察官と意見の違うところだけを特定してほしい,ということを言ったのです。そうしたら,結局,今回出してきた検察官の意見書で,楠意見書に同意したうえで,その内容的な部分の全部について信用性を争うというのです。楠教授には,一部,検察官が納得しないところがあるようだから,証人尋問に応じてほしいということを事前に依頼していたのです。そうしたら,検察官は意見書の信用性を争う,と,なにか嘘を書いているようなことをいうわけです。これはとんでもない,失礼極まりない話だということを言いたかったのです。だから,信用性を争うということの趣旨を明確にしてほしいと。検察官は,意見書のどの部分を争いたいのか明らかにすべきだと思います。

(記者)

本件とは別なのですが,徳島大学の事件に飛び火したのですよね。これはD社にこの件で捜索に入ったら,たまたまそういう証拠が手に入ったということなのでしょうか。その件では,徳島大学の先生とD社との,いわゆる汚職が認められたけれども,本件とはまったく関係ない話ということですか。

(郷原)

D社の方が賄賂攻勢をしたわけではなくて,むこうから要求された要求型の贈収賄なのです。だから決してD社の営業が問題なわけでもなんでもないのです。ところが,検察はそれを一緒にしてしまって,国循でもそのようなやり方をとったという疑いを持っていたのだと思います。たまたま徳島大学ではそういうことがあって,要求されて賄賂を渡したということがあったから,そちらを先にやったということだと思います。

(記者)

楠先生の意見書とは,簡単にいうと,どんなことが書いてあるのでしょうか。

(郷原)

まず,意見招請の手続きがいかに重要なのかということを非常に明確に言っています。しかし,その手続きが欠けていたら,直ちに,入札の公正を害すべき行為がすべて無罪になるのか,つまり犯罪の成立が否定されるのかというと,そうではないけども,少なくとも,犯罪の成立に影響を及ぼす重要な事実であるということを明確に言っています。

次に,さきほどの仕様の設定の問題です。不可欠性を絶対要件にすることは考えられないと。すくなくとも発注者には適切に仕様を設定する裁量権・判断権がある。その合理性が問題なのであって,不可欠なもの,最低限のものしか仕様の設定ができないということになったら,入札というのは成り立たないということも,明確に言っています。

さらに「お付き合い入札」について,本件では,もともと競争がない状態で,競争の「外形」を作るだけであって,これは入札の公正を害すべき行為には当たらないというのが楠教授の意見です。これが,たとえば,自治体でよく事件になる,昔からあるタイプの不正ですと,市長とか自治体の幹部が,指名競争入札で受注意欲のない業者だけを指名して,特定の会社の会社に受注させるようなことがあります。この例も,なんとなく「お付き合い入札」みたいに見えるけれども,これは付き合わせることによってメンバーセットして,受注意欲のある業者を排除しているのですから,それはもう完全に競争に影響を及ぼしているのですが,もともと他に受注意欲のある業者がない本件とは異なります。

以上のことから,楠先生の意見書を全面的に前提にすると,ほぼ控訴趣意書で我々が述べていることが裏付けられることになります。そもそも,検察官が楠意見書に同意すること自体がおかしいのです。反論があるのだったら,その部分を不同意にして,証人尋問で質すべきものと思います。

以上