経緯説明②~はじめての取り調べ
「国循サザン事件」の当事者・桑田さんが、そのときの実体験と真摯に向き合って、わかりやすくまとめられた文章です。
何回かに分けて、アップいたします。
前回のブログはこちら↓
はじめての取り調べ
国循は,大阪府吹田市の新興住宅地,千里ニュータウンの一角にあります。
そこから車で大阪地方検察庁のある大阪市の中心部までは,車で30分ぐらいの距離があります。
道中,私は車の後部座席の中央に乗り,両脇を先ほどの男達に固められていました。
話を聞けば,その人たちは検察事務官で,これから検事に会いに行くとのことでした。
道中は,私にかかっている容疑に関する話はまったくなく,普段何を食べている,とか,お酒は飲みに行くのか,といったような雑談をしていました。
大阪地検に着くと,検事の部屋に連れて行かれました。
まずは所持品検査ということで,携帯電話,財布,鍵,カードケースや,かばんに入っていた書類を検察事務官が取り出し,ひとつひとつ机の上に並べて行きました。
検察で証拠になりそうなもの―現金,カード類とかばん以外―はすべてその場で押収されました。
その後,検事による取り調べが始まりました。担当の三輪検事は,俳優の西島秀俊似の,いかにも「切れ者」のような風貌の方でした。
話し方は穏やかで,言葉遣いも非常に丁寧でしたが,容疑の核心に触れる部分については,なんども繰り返したずね,納得いくまでは追求を止めない,という厳しい姿勢が見て取れました。
「平成24年3月に行われた,情報システムの入札は覚えていますね?」
「あなたはダンテックから,お金をもらっていましたね?」
「入札の前に,NECの見積<みつもり>金額をダンテックに漏らした,あるいは漏らすように誰かに指示したことはないですか?」
というような内容を,三輪検事は繰り返し執拗にたずねてきました。
ここで,ダンテックとは,上記の入札で落札した(=競り勝った)企業であり,NECとは,同じ入札に参加してダンテックに競り負け,かつ,それまで十数年の間,この入札に関する業務を独占的に受注しつづけていた企業です。
また,入札とは,国循のような公の機関が,新しくモノを買う(物品調達),あるいは民間企業に業務を委託する(役務<えきむ>調達)際に,それに先だって,「モノを売りたい」「業務を受託したい」と考えている企業を公平に募り,彼らに一斉に価格を提示させて競わせたうえで,もっとも安価な価格を提示した企業と契約を行うという事務手続きのことです。
どうやら,三輪検事は,私が,入札に参加した特定の企業(ダンテック)に対して,入札の前に,他の業者(NEC)の見積価格を教えたのだ,と疑っていることがわかりました。
見積価格とは,入札に参加する予定の企業が,入札に先立ち,国循に対して提出する「おおよその価格」のことです。詳細は省略しますが,入札にもいろいろなやり方(種類)があり,どの種類の入札を行うかは,主に国のルールによって決まります。一般的には,入札の予定価格の高低によって,入札の種類が決まります。国のルールでは,入札の種類が決まらないと,官報に掲載するなどの正式な手続きが踏めないことになっていますので,国循では,入札に先立ち,「どれぐらいの金額の入札になりそうか」を事前に把握しなければなりません。
そのため,国循は,事前に企業から取得した見積書から見積価格を把握し,これを元に,独自の計算によって入札の予定価格を計算し,入札の手続きを進めます。よって,国循は,入札に参加する,最低でも1社の企業の見積価格を事前に知っていることになります。
その見積価格は,入札当日に企業が提示する入札価格とは異なることもありますが,見積価格を知ることによって,ある程度の精度で入札価格を推測することができるといえます。
よって,その見積価格が,事前に,国循の職員を介して,同じ入札に参加する他の企業に知らされていたならば,それは明らかな違反行為です。このような行為は,「官製談合」と呼ばれ,入札の公正を害する行為として,刑事罰の対象となります。つまり,私は,検察から,この「入札の公正を害する行為を行った者」としてマークされたのです。
このとき,私は,検事はなんの根拠があってこのようなことを聞くのだろう,と不思議に思っていました。なぜなら,
- 私は入札の担当者ではなかった
- ダンテックとの関係,とりわけ金銭授受についてやましいところはなかった
- NECの見積金額をダンテックに伝えたことはなかった
からです。以下に,それぞれについて説明します。
続きはこちら 経緯説明③〜私は入札の担当者ではなかった
最初から全文通してご覧になるなら 経緯説明(桑田さんご本人自署)
「どうして“サザン事件”なの?」と思われた方は、こちらをご覧ください。