国循官製談合事件第19回傍聴録
国循サザン事件-0.1%の真実-無罪を訴える桑田成規さんを支援する会Nです。
2017年1月17日13時30分〜15時45分、大阪地方裁判所第603号法廷にて、国循官製談合事件(「国循サザン事件」)の第19回公判が行われました。
この傍聴録は、逮捕起訴された桑田さんを支援する会として動いているNが、第19回公判の様子や感想を傍聴した本人としてアップしています。
※第11回より更新が滞っており、ご迷惑をおかけいたしております。今回より順次遡りましてアップしてまいりますので、今しばらくお待ちください。
※Twitterではなるべくリアルタイムに投稿しております
国循官製談合事件の冤罪被害者を支援する会 (@southerncase) | Twitter
- 第19回公判の様子
- 弁護側証人尋問始まる
- 医療情報学の”教科書”「新版医療情報 医療情報システム編」
- 松村教授の意見書
- 国際ルールで決められた手続きを「うっかりミスした」で済まされるのか?
- 仕様書の作成において現行業者の意見を聞くことは当然
- 「500床以上の病院での仮想化の経験」を仕様書に入れるということ
- 談合とは?
第19回公判の様子
- 裁判官 西野吾一裁判長他2人
- 桑田さんの弁護士 2人
- 高橋さんの弁護士 3人
- 検察官 3人
- 報道関係 1人
- 傍聴者 約15人
弁護側証人尋問始まる
2016年12月12日(月)の第17回公判で検察側証人に対する証人尋問が終了し、いよいよ今回より弁護側証人尋問が始まりました。
一人目の弁護側証人は、大阪大学医学部附属病院(阪大病院)医療情報部教授の松村泰志先生(医師)が出廷してくださいました。
松村教授は、大学教授として医学部、大学院で教鞭を執っておられているだけでなく、現役医師として阪大病院で外来診療にもあたっておられます。
今回は医療情報学の専門家として、また大学病院医療情報部で実務を行っておられるお立場から、松村教授の卓越した知識とご経験に基づいて証言が進められました。
医療情報学の”教科書”「新版医療情報 医療情報システム編」
松村教授への主尋問は、教授のご経歴についての質問から始まりました。
松村教授は大阪大学医学部を卒業後、循環器内科医、産業医、総合内科医の資格を取得され、大学院では心臓の研究を行っておられました。
大学院在学中にコンピューターに関心を持ち、人工知能の研究なども行っておられましたが、1992年10月の大阪大学医学部附属病院の移転に伴い、新病院の情報システム担当の命を受け医療情報部に移られました。
その後は、医療情報学の第一人者として大学、大学院での指導や専門書の執筆なども手掛けておられます。
今回の公判では、医療情報学の教科書的存在である「新版医療情報 医療情報システム編」(松村教授責任編集)を用いて質問や証言が行われるシーンが何度かありました。
この本は10数年前、国内の病院でシステム導入により病院を合理化しようという動きが広まりつつあった頃、病院情報システムに明るい人材の不足を解決するために、日本医療情報学会が人材の育成部会を作り、教科書をつくり上げる事業を行った時のものだそうです。
松村教授が「医療情報学の第一人者」として、今回の事件に関する証言をお願いするにふさわしい方であることがわかります。
また本の中では、システムの仕様書作成に関する決まりや、公的機関における高額な入札に適用される「政府調達」というルールについても明記されています。今回の事件で問題となっている入札も同じく「政府調達」が適用されることから、松村教授の証言は、まさに「専門家による客観的な裏付け」となることは間違いありません。
松村教授の意見書
松村教授は桑田さんの事件に関して2度、検察から呼ばれています。その際に、今回の事件の内容について、検事より詳しく話を聞いたそうです。
2度目の呼び出しの際、担当検事に「次には供述調書を作成するかもしれません」と言われ、松村教授は調書の作成に同意しました。そこで、松村教授は、来たるべき調書作成に備えて「記憶が明確なうちに」と、検察で話された内容を書き留め「意見書」を作成されました。
しかし、その後、松村教授が検察から呼ばれることはありませんでした。
松村教授の「意見書」は、弁護側から裁判所に提出され証拠請求されましたが、なんと検察はこれを不同意にしています*1
検察が松村教授の調書も取らず、担当検事に話した内容と同じ意見書の証拠採用に同意しないということは、松村教授の供述内容にはよほど検察にとって都合の悪い事実があったことが推測されます。
松村教授の意見書は、検察が問題視している点についてほぼ漏れなく論じられていましたが、一点だけ重要なポイントが抜け落ちていました。それは、「国循の事務方責任者が、WTO(世界貿易機関)協定のルールで定められている『意見招請』手続きをとらなかった」という点です。
意見招請とは、入札よりかなり前のタイミングで仕様書「案」を一般に公表し、意見を募集する手続きのことです。本来であれば、国循は意見招請を行い、仕様書案に問題(実現不可能なことや、特定の業者に有利になるような条件が書いてあるなど)がないかについて世間一般に意見を求める必要があるのです。国際ルールでこの手続きを定める趣旨は、たとえば日本国内の事情を必ずしも熟知していない海外からの入札参加希望業者に対して(もちろん国内の業者に対しても)、事前に十分な検討の時間と意見を述べる機会を与え、入札の公平性(機会平等)を確保することにあります。つまり、本来実施すべき意見招請を省略することは、すなわち、入札の公平性をないがしろにすることになるのです。
この点について、桑田さんの弁護人である高見弁護士が疑問を問いかけると、松村教授は、「この2度の呼び出しの際、担当検事の説明にはこのことが一切触れられていなかった、だからその事実を知らなかったため意見書には書けなかったのだ」と、いうのです。
後に、高見弁護士からこの事実を知らされた松村教授は、その時の気持ちを、
非常に驚きました。(松村教授が医療情報部長を務める)阪大病院では
絶対にあってはならないことで、考えられない
と証言しました。
続いて
この2つの入札について、本来の手続きをしていれば、今回のようなことは起こらなかったのではないか
と、強い口調で発言され、傍聴席も「やはり・・・」という空気に変わりました。
国際ルールで決められた手続きを「うっかりミスした」で済まされるのか?
今回の証言で松村教授も非常に驚かれていたように、「国循の事務方責任者が、WTO(世界貿易機関)協定のルールで定められている意見招請手続きをとらなかった」というのは「うっかりミス」では済まされないはずです。
しかし、検察側1人目の証人として出廷した西田浩二氏(当時の国循企画室室長)は第4回公判において、弁護側からの
予定価格が80万SDRを超えていた入札1および入札2において、なぜ意見招請が行われなかったのか
という質問に対し
「ミスであった」「気がつかなかった」
と答えています。しかも、
捜査段階で検事には説明をした
と証言しています。これは、松村教授が検察から呼び出しを受ける前の時点の話です。
『国循サザン事件』第4回公判を終えて(4) – 国循サザン事件―0.1%の真実―ここからもわかるように、入札の公正を確保するための重要な手続きとして義務付けれらている意見招請手続きを、当時の事務方責任者である西田氏がとっていないのです。しかも、あたかもそれが大した問題ではないかのように振る舞い、検察もその態度に同調していました。
意見招請には時間がかかるため、余裕をもった調達スケジュールを組む必要があります。しかし、スケジュールがタイトであるからといって、重要な手続きを省略してよいはずはありません*2。いずれにしても、スケジュールの厳しい状況においても国循以外の公的機関ではきちんと手続きを行っているのです。
今回、松村教授はこのことについて、
絶対にあってはならないことで、考えられない
と語気を強めて証言されました。
捜査段階から西田氏は、意見招請手続きを行わなかったという「自分のミス」を検察に伝えていました。しかし、西田氏の供述調書にはこの「ミス」について触れた部分は一切ないのです。検察は、松村教授にもこの事実を伏せたまま、調書を取ろうとしていました。
このことは、何を意味するのでしょうか?
仕様書の作成において現行業者の意見を聞くことは当然
桑田さんの起訴状には
平成25年度一般競争入札の仕様書作成過程において、ダンテックのみを関与させた
旨の記載があります。
このことについて、松村教授は、
業務委託に関する仕様書を作成するには、現行業者(この入札ではダンテック)のヒアリングから始めなくてはいけない。
物品購入の入札とは違い、業務委託やシステム開発(カスタマイズ等)の仕様書を作成する際には、発注者が現行業者に尋ねて、現在の仕様や現行業務の状態を知る必要がある。
発注側は細かいところまで気づかないこともあるので、現場でどのように行われ、改善点があれば仕様書に盛り込むことは必要である。
現場が問題なく動くための安全性の確保が必要であり、当たり前のことを当たり前に行うことはとても大切で、そのためにも現行業者からの聞き取りは必須である。
と、桑田さんと当時の現行業者ダンテックとの関わりが問題であるかのように言ってきたこれまでの検察側証人の証言とは、全く反対の証言が行われました。
「事務方には専門的なことはわからない」という立場で証言していた検察側証人・西田氏に対し、医療情報学の第一人者である松村教授がこのように証言したことを考えると、何が真実であるのかが見えてきたように思います。
「500床以上の病院での仮想化の経験」を仕様書に入れるということ
これまでの公判で、何度も質疑が行われた、仮想化の経験と「病床数」の問題。
検察側の証人によって、「500床以上」と条件がつくことで、ダンテック以外の業者の参入が困難となるような条件を盛り込んだ仕様書になった、とされてきました。
しかし、松村教授からは
300床と500床の病院のシステムでは、対応できる業者が違ってくる。また、銀行など他業種で仮想化の経験があったとしても、病院内のルールが分かるようになるまでに時間がかかり、適切ではない。
「500床以上の病院での情報システム仮想化の構築経験」を仕様書に盛り込むことは、過剰な要求ではない。
との証言がありました。
この事件で問題になっているのは、当時、すでに行われていたシステム運用保守業務の「次年度の」業者を決める入札です。
検察側の主張である「入札できる業者が絞られてしまう。ダンテックに有利な条件にした」ということではなく、「仕様書の内容のレベルを下げて、これまでに経験もなく、できるかどうかもわからない業者が入札に参加することの方が問題である」ということです。
もしも他の業者が入札に参加できないような条件であったとしても、条件を緩めることが「国循のシステムが止まるかもしれない」ということにつながるのですから、松村教授も「要求は過剰ではない」と証言されたのです。
談合とは?
ここで、松村教授に「談合とは何でしょうか?」という質問が行われました。
松村教授は
発注者の「私利私欲」が元となり、特定業者に”とらせよう”として、特別な条件を書くこと。
と答えられ、続いて
必要な要件を書くことで業者が絞られることは談合でしょうか?
という質問には
そうではないと信じる。
これが談合となれば、医療情報システムの世界では、とても困ったことになる。
対応できる業者が絞られることはいたしかたない。全ての業者が最先端の技術を目指して取り組んでいるとは言えない状況の中で、対応できる業者が絞られることは発注者側の問題ではなく企業の問題であり、これをよしとすれば日本全体の公的機関は停滞する
と答えられました。
そして
今回のことが有罪になるようなことがあれば、発注者が新しい技術を求めると訴えられることになり、我々は常にビクビクしながら仕事をしなければならなくなる。
これは非常に困ることであり、日本のためにならない。発展を妨げることになる。
と、憤りをも感じられる勢いで、松村教授は証言されました。
第19回公判を傍聴し、医療情報学の専門家として、また現場で仕様書を作成した経験をもつ松村教授の証言は、桑田さんを支援する私たちにとって、非常に心強い内容であり、明かりが差し込むような印象を受けました。
次回の第20回公判は、京都大学医学部附属病院医療情報企画部の黒田知宏教授と国立循環器病研究センター先進医療・治験推進部の山本晴子部長にご証言いただきます。
黒田先生には医療情報学における専門的見解、山本先生には国循における桑田さんの果たした役割について、それぞれご証言いただく予定です。
期日は2017年2月1日(水)13時10分〜 大阪地裁603号法廷にて行われます。
ぜひ、真実をご自身の目で確かめにいらしてください。
桑田さんを支援する会では、桑田さんの冤罪をはらすべく動いています。
公判を傍聴するたびに、0.1%を証明する真実が見えてきます。
ぜひご一緒に、その真実を確かめてください。
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