意見陳述書(2016/04/27)

検察の主張する,私(桑田)に対する公訴事実は,概略,以下の通りです。

  • 2012年度の一般競争入札において,NECが競争参加資格審査のために提出していた運用支援業務従事者数等が記載された書面を,電子メールにてダンテック高橋氏に送信し,NECの体制を教えた。
  • 2013年度の一般競争入札において,ダンテックのみを仕様書案の作成に関与させるとともに,ダンテック以外の業者の参入が困難となるような条件を盛り込んだ仕様書を作成し,その事情を隠して入札に供した。
  • 2013年度の公募型企画競争入札において,受注する意思のない企業NDDを競争に参加させたうえ,ダンテックより高値で応札させるとともに,ダンテックが作成提出すべき企画提案書について助言指導を行った。

これに対し,本日の第一回公判にて,私が述べた意見は以下の通りです(桑田)。

 

検察官の述べた公訴事実には重大な誤りがあります。私は,徹底的に事実を争います。

まず初めに,裁判官には,国循の情報統括部長であった私と,国循の「入札事務の責任者」である調達企画室,この両者の役割がまったくかけ離れていることをご理解いただきたいと思います。私のミッションは,国循の目指す目標に沿って,情報システムを運営する現場の業務が,効率よくスムーズに行われるようにすることです。いわば,私は情報システムに関する「現場の責任者」であります。一方,調達企画室は,入札を初めとする国循の調達業務を一手に引き受ける,国循の運営そのものに直接携わる「中枢の管理部門」です。彼らのミッションは,国の定めたルールに則り,国循の入札が公正な手段で行われるように手続きを進めることです。したがって,公の入札の公正を保つのは調達企画室の職責です

しかるに,今回の事件において,その根本にあるのは,調達企画室が自らの職責に反し,本来,公正・公平性のために当然必要とされる意見招請という手続き,仕様策定委員会の設置といった手続きを省略したり,煩雑な手続きを回避するために見せかけだけの競争性を装ったりしたことです。ところが,検察官は,この事実に目を背け,何としても自らの責任を免れようとする調達企画室の職員らの心理を巧みに利用し,すべての責任を私に押しつける形で彼らに供述をさせました。そのうえ,検察官は,いかようにも解釈できるメールの文言を,私に不利な方向にしか評価しませんでした。しかも,その証拠が弱いと見るや,何人もの証人を請求し,彼らから,視野の狭い,一方向的な証言のみを得ようとしています。そもそも,単なる「現場の責任者」であり,入札業務と関係のうすい私が,「入札の公正を害した」かどで訴追されること自体,きわめて異常なことです。

さて,第一の事実について,意見を申し上げます。問題の入札に関する業務は,当時行われていた情報システムの保守・運用業務(これを現行業務といいます)とほぼ同じ内容のものです。したがって,入札に参加する者が,現行業務の体制を知りたいと思うのは当然のことです。私は,ダンテックの高橋さんからのこのような求めに応じて,その当時の現行業者の体制を知らせたのです。そもそも,毎年毎年,同じ業務内容で入札が繰り返される今回のようなケースでは,業務内容をもっともよく知る現行業者が圧倒的有利な立場にあります。よって,公平性を確保する意味においても,現行業務体制は,参加予定者から求めがあれば当然教えるべき情報です。私の行った行為が,入札の公正を害するものでないことは,火を見るより明らかです。

次に,第二の事実について申し上げます。当時,私は,「現場の責任者」として,現場の要望を入札の仕様書「案」としてとりまとめ,調達企画室に伝える立場にありました。そのために,現行業者から聞いた意見を元にして,不要な業務を省き,かつ現場の状況に則した案を作成しようとすることは,コスト削減と業務最適化という意味において,現場の責任者として当然のことです

また,私が提示した案は,「ダンテック以外の業者の参入を困難とするもの」ではありません。国循の最大の特長は,病院と研究所をあわせ持つというところにあります。この特長を活かし,国循は,臨床研究の推進を目標に掲げています。私は,病院と研究所の「臨床」と「研究」を連携させ,さらに高いレベルの成果を達成するしくみが必要と考えていました。このためには,セキュリティのレベルが高く,かつ使いやすい仮想化システムの導入が必須であり,その十分な経験をもつ企業によって,情報システムの維持・運営・管理がなされるべき状況であったのです。

私が示したのは,国循のために必要な,現場の要望をとりまとめた案にすぎません。この案をもとに,仕様書を完成させ,公正な手続きにより入札を実施するのは調達企画室の職責です。私が入札の公正を害したという検察の主張は的外れです。

最後に,第三の事実について申し上げます。私が「お付き合い入札」をNDDに依頼した,という事実はありません。また,そもそも,私にはその動機がありません。政府から,そして国循内部からも,一者応札を避けるように圧力をかけられていたのは調達企画室です。そのような強い要請に応え,一者応札を減らすことこそが,彼ら,調達企画室の目標でもあったのです。

また,私がダンテックに助言指導をした,とする検察の主張も見当違いです。この入札では,参加者に対し,国循の情報システムに関する企画提案書の提出を求めていました。一方,当時,ダンテックは現行業務を担当する企業であり,ダンテックの社員と私は,毎日のように顔を合わせ,情報システムの今後の整備計画等について打ち合わせをしていました。したがって,彼らの企画提案書のなかに,私が,業務の必要性に応じてダンテックに伝えた内容が含まれていたとしても,それは私が助言指導をしたことにはなりません。

以上のことから,私が,入札の公正を害したという事実はまったくありません。

以上

(桑田)