国循官製談合事件 第8回公判傍聴録
国循サザン事件-0.1%の真実-無罪を訴える桑田成規さんを支援する会Nです。
2016年8月8日13時10分〜16時30分、大阪地方裁判所第603号法廷にて、国循官製談合事件(「国循サザン事件」)の第8回公判が行われました。
この傍聴録は、逮捕起訴された桑田さんを支援する会として動いているNが、第8回公判の様子や感想を傍聴した本人としてアップしています。
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国循官製談合事件の冤罪被害者を支援する会 (@southerncase) | Twitter
- 第8回公判の様子
- 応札価格の決め方と業務体制人数
- 運用技術者の人数
- 尾崎氏の証言と西田氏の証言の食い違い
- 安すぎる「積算資料」
- 桑田さんがダンテックに教えた「業務体制」
- 当時のNECの情報システム運用・保守管理業務の実態
- H25年度入札NECが参加しなかった理由
- H25年度公募型企画競争にNECが参加しなかった本当の理由
- NECから提出された入札参加資格に関わる3部の書類
第8回公判の様子
- 裁判官 西野吾一裁判長他2人
- 桑田さんの弁護士 1人
- 高橋さんの弁護士 3人
- 検察官 3人
- 報道関係 5人くらい
- 傍聴者 約17人
今回は検察側の4人目の証人として、平成23年度まで国循内の情報システムの運用・保守業務を受託していた業者であり、平成24年度入札にも参加したNECで営業を担当していた尾崎氏が出廷。検察側主尋問、弁護側反対尋問が行われました。
初めて国循以外からの証人を迎え、何が語られるのか?注目の公判となりました。
応札価格の決め方と業務体制人数
いつものように検察側の主尋問から始まった第8回公判。
検事は、国循の情報システム運用・保守業務の入札における「応札価格の決め方」について尾崎氏に質問しました。
この質問に対して尾崎氏は
運用に関しては
運用技術者の単金(1月・1人あたりの人件費)×人数×運用期間(12ヶ月)
保守に関しては
保守対象機器ごとに決められた保守単価を合計した金額
であり、この2つの金額を合計したものが応札価格になると回答。
情報システムの運用技術者は、入札で落札した業者が国循に必要人数を派遣し、国循内で常駐して仕事を行います。
この常駐者やその他メンバーの構成については「業務体制表」として、入札後に落札業者から国循に提出された資料に明記されています。
運用技術者の人数
応札価格の算出にあたっては、先の尾崎氏の発言の計算式で計算されます。
応札価格のうち、運用に関する金額を計算する際、単金(人件費)がいくらなのか?は自社内で決められた金額で計算できます。
そうすると、国循の業務を行うために「運用技術者の人数が何人必要なのか?」が鍵になります。
しかし、H23年度以前の入札では、「運用技術者の人数」は仕様書には明記されていませんでした。
しかし、今回の事件で問題となっているH24年度入札からは、入札参加業者が公平な立場で参加できるようにと、国循側が「運用技術者の人数」を仕様書に提示することにしたと、これまでの公判で説明されました。
第2回〜4回までの公判で西田氏は「入札は全ての参加者に対して公平かつ公正であるべき」と何度も証言しました。
その中には、問題の24年度入札に関しては、新規に参加する企業が不利にならないようにとの配慮から、企業が応札価格を算出する際に参考になるよう、運用支援業務従事者数等を仕様書に明記することになったという証言がありました。
国循官製談合事件 第6回公判傍聴録 – 国循サザン事件―0.1%の真実―
ここにでてくる西田氏というのは、国循契約係の実務責任者です。また「運用支援業務従事者数等」というのが「運用技術者の人数」のことです。
では、H24年度入札の仕様書で、「運用技術者の人数」は何人とされていたのでしょうか。
公判で、西田氏は
「12人」として仕様書に記載するように中島氏(当時の国循の契約係長)に指示した
と証言しました。つまり「12人」と仕様書では明記されていたのです。
ところが、H23年度のNEC(当時の現行業者)が実際に国循に派遣していた「運用技術者」は「9人」でした。
つまり、当時、NECの技術者は「9人」しかいなかったにもかかわらず、西田氏が次年度の業務仕様書に書くように指示した人数は「12人」。
このことについて、過去の公判で、西田氏は、
「NECの9人という体制は、あくまでもこれまでの23年度業務に対して必要な人数である。その入札は24年度業務についてであり、24年度に想定される業務量から算出して伝えている」
と説明していたのです。
尾崎氏の証言と西田氏の証言の食い違い
他方、尾崎氏は
- H23年度の運用技術者の人数は9人であったこと
- H24年度入札においても、H23年度と同じ9人で臨む予定であったこと
- 応札価格を算出するための単金(人件費)は、100万円/1人・1ヶ月で計算していたこと
を証言しました。
つまり、NECが、H24年度入札に関する仕様書や入札に関する説明書を見た後、この入札に参加することを決め、入札参加資料として国循に提出した「H24年度業務体制表」に記された運用技術者の人数は、H23年度と同じ「9人」。
このことに関して、高橋さんの弁護人である秋田弁護士から
国循の仕様書には12名と記載があったと思うのですが、それでもNECは9名で提出したのですか?
と質問がありました。
尾崎氏は
仕様書には機器が新しく変わるなどの追加項目はありましたが、現行体制を変えるほどの内容ではないと判断し、現行と同じ9名と記載した業務体制表を提出しました
と答えました。
西田氏は
H24年度入札の仕様書に記載した12人の数字は、H24年度の業務を遂行するのに必要な人数として記載しました。H23年度が業務を9人で行っていたとしても、H24年度も9人で行えるという判断ではなく、12人必要だと判断した。
と証言しましたが、現行業者であるNECが次年度入札の仕様書や説明書を確認したうえで「現行と同じ9人で履行できる」と判断した業務内容。
なせ、西田氏は「12人」にこだわったのか。
傍聴しながら色々なことが頭の中を巡りました。
安すぎる「積算資料」
秋田弁護士からの質問は続きます。
国循が入札予定価格を決めるのに使っていた「積算資料」という本はご存じでしょうか?
これは、西田氏の尋問のときにも出てきた本です。この本は定期的に刊行され、建設や情報システムに関する標準的な単価が掲載されているようです。
尾崎氏は知っていると答えました。秋田弁護士は、
どうでしょう、「積算資料」に掲載されている、いわゆる「単金(1人・1ヶ月あたりの人件費)」は、NECにとっては安すぎるのではありませんか?
とたたみかけるように質問しました。尾崎氏は、
はい、NEC本社の社員の単金よりもかなり安く、協力会社のシステムスクエアを使ったとしても、それより高くなります。
と答えました。
上にも書いたとおり、NECが国循に提出した見積書に記載された単金は100万円。あわせて尾崎氏は、この100万円の単金は、NEC本社の社員ではなく、システムスクエアに再委託した場合の金額だと尾崎氏は説明しました。
他方、「積算資料」に掲載された運用技術者の単金は70~80万円程度。大きな開きがあります。
どうやら、ここに西田氏が「12人」にこだわった理由があるようです。
NECの単金は100万円で運用技術者「9人」。つまり、1年間の費用は、
100万円×9人×12ヶ月=1億800万円
となります。
一方、国循が入札予定価格の根拠とする「積算資料」で、そこに掲載されている単金が70~80万円。仮に、間をとって、単金を75万円と仮定し、運用技術者「12人」とします。すると、1年間の費用は、
75万円×12人×12ヶ月=1億800万円
です。驚いたことに、ぴったり一致します。
西田氏は、NECの単金を知ったうえで、国循が基準とする単金が安すぎることから、人数を増やすことによって、国循の入札予定価格をNECの見積額に合わせようとしたのではないでしょうか。
実際には、なぜこのようなことをしたのか、については裁判では誰も何も語っていません。しかし、この数字が客観的に語るものは、非常に大きく、かつ確かなものであると感じます。
桑田さんがダンテックに教えた「業務体制」
ここで,桑田さんの公訴事実について、振り返ってみましょう。
2012年度の一般競争入札において、NECが競争参加資格審査のために提出していた運用支援業務従事者数等が記載された書面を、電子メールにてダンテック高橋氏に送信し、NECの体制を教えた。
ここで「NECの体制を教えた」とあるのですが、これの意味は、桑田さんが「NECが予定していたH24年度の体制を、ダンテックに教えた」ということです。検察の主張は、これによって,ダンテックはNECの応札金額を推測することができた、ということのようです。
他方、桑田さんは、ダンテックに教えたのは、H23年度の体制、つまり当時の現行体制であると言っています。現行の体制は、現行業者しか知らず、これから新しく入札に参加しようとする業者にはわからないものです。
上に書いたように、H23年度もH24年度も仕様書に大きな変更はありませんでした。NECも、H23年度が「9人」、H24年度も「9人」と人数を増やすことはありませんでした。
しかし、H24年度仕様書だけは、上のように巧妙な細工がされて「12人」となっていた。仕様書の内容しか公表されない状態であれば、当然、新規参入業者は「12人必要なんだ」と思って、入札に参加するでしょう。あたりまえですが、「12人」を想定して応札すると,「9人」で計算して応札してくる現行業者のNECよりも価格は高くなり、入札に負けてしまう可能性が非常に高くなります。
これで公平な入札といえるのでしょうか。
むしろ、公平のためには桑田さんがやったように「現行の人数」を教えるべきであって、意図的に細工された入札予定価格を立てる方が大きな問題ではないでしょうか。
当時のNECの情報システム運用・保守管理業務の実態
H24年度入札でダンテック社が落札するまで、長年にわたって国循の情報システムの運用・保守管理は NECが行っていました。いわば独占状態だったようです。
入札も一者応札が続き、仕様書の作成に関しても、現行業者であるNECが前年度の仕様書をもとに修正し、国循に送っていたようです。
この窓口になったのが、NEC側は今回証人の尾崎氏、国循側は前回証人の原口氏とされているのですが、尾崎氏は
NEC内でみんなが作成したものをまとめて送っていただけで、窓口として送っていたが自分が直接作成して送っていたわけではない
入札に関する仕様書の作成は、現行業者としての業務の一部だと認識していた
と証言しました。
ここでも、西田氏が証言した
情報を提供してもらうことはあっても、特定の業者が仕様書の作成に関わることはない
という証言と大きく食い違います。
どうしても、これまで傍聴してきたNには、この質問が何につながるのか?なぜ食い違っているのか?がはっきりと見えないまま、公判は進みました。
H25年度入札NECが参加しなかった理由
H24年度入札はダンテック社がNECに競り勝って落札。
落札金額の差は600万円という僅差でした。
翌年H25年度入札では、NECは入札に参加せず、代わりにシステムスクエアが参加しました。その結果、システムスクエアが落札したのですが、応札価格が超安値であったため、国循はシステムスクエアの履行能力に関する調査を行い、結果、システムスクエアは「履行能力なし」と判断されました。つまり、入札は不調に終わりました。
ここで、NECがH25度入札に参加しなかった理由は
- ダンテック社製の新利用者システムを使うこと
- 落札後の再委託は全体の50%以内とする
という仕様書の項目が、NECとしては難しいと判断したからとのこと。
他社が開発したプログラムを使うことはリスクが高い、という判断はあったようですが、一番の問題は「再委託を50%以内にする」ということだったのではないか?と、その後の尾崎氏の発言で気づきました。
公判中に尾崎氏が発言したNECの人件費について
- NECの社員の場合には147万円/1人1ヶ月
- システムスクエアに外注した場合は100万円/1人1ヶ月
- H23年度NECが受託していた情報システムの運用・保守業務について、国循に常駐するメンバーは9人で全員がシステムスクエアなどの外注で、再委託率100%
要するに、NECの人件費が高いので、入札価格を抑えるためには人件費の安い下請け・孫請けに再委託しないと合わないわけです。
しかし、H25年度入札に関する条件には
業務の再委託は全体の50%以内とする
という条件が入っており、NECが人員の50%をNEC本社の技術者で賄うとすると、応札価格が高くなってしまい、落札するのが難しくなる。
そして他社が開発した新利用者システムを引き継いで運用することのリスク。
これらの条件を見た上で、H25年度入札にはNECは参加せず、これまでNECの下請けとして業務に関わっていたシステムスクエアが直接入札に参加することになったのでしょう。
それにしても、NECが落札して請け負った業務を、全て下請け・孫請けに丸投げしている実態は、企業として信用を得られるのか?と、企業としての姿勢に疑問を抱かざるをえません。
このNECの人件費が明らかになったことで、さらにこれまで不透明だった「業務体制人数」についての疑問も解けるきっかけができたことになります。
H25年度公募型企画競争にNECが参加しなかった本当の理由
H25年度入札が不調に終わった後に改めて「公募型企画競争入札」が公告されました。当初、この入札の参加予定業者はダンテック1社のみでした。
桑田さんの公訴事実には
2013年度の公募型企画競争入札において、受注する意思のない企業NDDを競争に参加させたうえ、ダンテックより高値で応札させるとともに、ダンテックが作成提出すべき企画提案書について助言指導を行った。
があります。
1社応札が問題視されることを懸念し、お付き合い業社を桑田さんが準備したという内容です。
このことについて、弁護側から尾崎氏に反対尋問が行われました。
水谷弁護士(ダンテッック高橋さんの弁護人):国循から公募型企画競争に参加してほしいと強く要請されたのではありませんか?
尾崎氏:私はその時には九州に転勤しており、担当を外れていたのでわかりません。
水谷弁護士:そのあたりのやりとりについて、あなたの後任の担当者に宛てたメールが、CCで尾崎さんにも送られていましたよね?
尾崎氏:よく覚えていません
ここで、水谷弁護士からそのメールのやり取りや、調書に記載されている内容などが提示されました。
尾崎氏は初め「担当ではなかったのでよく覚えていない」と発言していましたが、資料を提示され、水谷弁護士から
後任の担当者からのメールには「国循の契約係からの依頼は、単なる相見積もりであると思われます」という記載がありましたね。これはどういう意味ですか。
と質問され、尾崎氏は
単なる相見積もりの相手で「当て馬」にされるのなら、参加する必要はないという意味だと思う。
と発言。
この「当て馬」発言には、質問者であった水谷弁護士がすぐに反応したのはもちろん、会場内もざわつきました。
尾崎氏がこのように口を滑らせたことは、やはり日常的に入札においてはそのような行為が行われていたことを窺わせます。
尾崎氏のこの「当て馬発言」、その相見積もりの依頼が桑田さんからではなく、国循の契約係からであったことは、桑田さんにとって非常に有利な証言だったと言えます。
NECから提出された入札参加資格に関わる3部の書類
最後に、桑田さんの弁護人である我妻弁護士からの反対尋問が行われました。
いつものように、とても冷静に、しかし反論できないような落ちついた口調で始まった質問のやりとりで、法廷内の空気が張り詰めるのがわかりました。
我妻弁護士:H24年度入札に関して、国循から提出を求められていた業務体制表の資料は、全部で3枚でしたか?
尾崎氏:はい
我妻弁護士:3枚を左上にホッチキスで留めて提出しましたか?
尾崎氏:はい
我妻弁護士:ホッチキスをとめたのは左上1箇所でしたか?
尾崎氏:はい
我妻弁護士:正式に提出する書類ですから、ホッチキスのとめ間違いをしたような、他にも穴があいたような書類ではなく、見栄えの良いものを提出するのではありませんか?
尾崎氏:はい、そうですね
尾崎氏も、何をそこまで聞かれているのだろう?というような感じでしたが、検察側から異議申し立てが入るも却下され、我妻弁護士の質問が続きました。
この後我妻弁護士から、桑田さんが、NECの提出した業務体制表をダンテック社に送ったとされる資料には、右上にもホッチキスで留めたような穴があったと説明し、再度尾崎氏にホッチキスは左上1箇所であったかどうかを確認しました。
また、見積書の提出日についても再度確認があり、
- 入札公告前のH24年の1月にも国循の中島氏から依頼があって見積書を提出したこと。
- その後、入札の直前になって、再度中島氏から保守機器見積明細書の提出依頼の電話があったこと。
- その直前に、尾崎氏は、ダンテックからのNEC機器の保守機器見積依頼を断ったばかりであったこと(H24年度入札の保守対象機器はほぼすべてがNEC製のものでした)。
- この中島氏からの提出依頼に関する電話は、入札参加資料の提出期限であったH24年3月16日(締め切り当日)の午前中であり、その後すぐに手配して同日14時5分にメール添付で提出したこと。
と尾崎氏が証言。
このように、入札直前に見積書の提出依頼があり、結果としてその入札は僅差でダンテック社が落札したことから
中島氏に、NECが入札直前に提出した見積書をダンテック社に転送して中身を見せたのではないのかと、国循を訪れて口頭で詰め寄った
中島氏は、それに対し、否定も肯定もせず、黙ったままであった
と尾崎氏が証言しました。
ここで第8回公判は閉廷となったのですが、今回の公判を傍聴して、これまでの証人尋問でバラバラに発言されていたことが、繋がったように感じました。
次回第9回の公判は9月1日(木)13時10分〜、大阪地裁にて行われます。
ぜひ、一緒に見て・聞いて、0,1%の真実を見つけてください。