《ソサエティサイエンスジャーナル》(インターネットラジオ『レディオ与一』)に出演しました(1)

岡山県井原市発のインターネットラジオ局『レディオ与一』の《ソサエティサイエンスジャーナル第548回》に出演いたしました。番組の許可を得て、番組内容の文字起こしを本ブログに公開いたします。(全4回のうち第1回目)

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吉岡優一郎(レディオ与一):ソサエティサイエンスジャーナル548回ということなんですけどね。

前回、前々回から、ずっと宣伝しているとおり、ゲストをお迎えしています。

一昨年の8月の14日ということになるんですけれど、第400回台のとき、2年近く前の回で、ある事件の裁判の事をお届けしたんです。

検察側に対してつっこみどころ満載で、ホントに、こいつ犯人だ!と、思って、この人たち(検察側が)しゃべってんのかな、みたいな、そういう裁判を傍聴させていただいたんです。

その被告人になっておられる方が、たまたま福山に来られているというので、お話をうかがいに、いまホテルまでやってきました。

こんにちは。お名前をどうぞ。

桑田成規(国循官製談合事件被告人):桑田と申します。よろしくお願いします。

吉岡:ようやく結審したんですよね。どういう事件と言えばいいんでしょうか。

桑田:「国循官製談合事件」と、通り名がついているんです。

国循、これは、国の機関で、国立循環器病研究センターという大阪府の吹田市にある医療機関がございます。

そこで起こった官製談合事件ということです。

私が、当初は被疑者、ということで、疑いをかけられて、大阪地検特捜部に、取り調べを受けていたわけです。

2014年11月に私が逮捕されて、12月に起訴された。流れとしては、そういう事件です。

内容は、なかなか難しくて、一言では簡単に言えないんですけれども……

国循という公の機関が、物を買ったり、あるいはサービスの提供を受けたりするときには、「入札」という手続きを取るんですね。

国循が入札行った際に、私がその業務に関係していたんです。私が不正に、その入札を妨害した、というんです。

具体的には、入札というのは、発注者が事前に「こういうものがほしいんです」と、明らかにして、参加する業者の方が、札を入れて、価格が一番安いところに決まるのが、入札制度ですね。

当然、秘密にしておかなければいけない情報というのがいくつかあります。

どうも、それを私が漏らしたのではないか、と検察から疑われて、「情報を漏らしただろう」と言われて、逮捕起訴された、ということになっています。

吉岡:桑田さん、当然、漏らしてないわけですよね。

桑田:漏らしてないですね。

吉岡:それを、検察側が、そこを疑った根拠はどういうことだったんですかね。

桑田:漏らしてはいけない情報、秘密にすべき情報というのは、通常、価格に関する情報なんですね。

入札というのは、発注者、国循側からは、予算が立っていて、その決められた予算額の範囲内で、モノを買わなければならない、という暗黙のルールがあります。

それを如実に示す「予定価格」というのがあります。「予定価格」は、外には、漏らしてはいけない。

業者さんは、自分たちの入札価格が、その「予定価格」を超えたら失格になってしまうので、できるだけ「予定価格」の下をくぐろうとする。ですが、あんまり安くしてしまうと、勝ったはいいけど、利益が出ない、ということになってしまう。

業者さんとしても「予定価格」を知りたいというのはよくあることです。

「予定価格」を、当初は、私が漏らした、と、言われていたんです。

実際には、そういったものは出てこなかった。

ところが、疑われて、捜査が始まって、私も気が付いたんですけれど、私は、特定の業者に「体制表」というのを送っていたんですね。

「体制表」というのは何かと言いますと、当時の現行業者、NECがずっと国循のシステムの面倒を見ていて、今回問題となる入札も、情報システムの保守に関するものだったんですけれど、それも、当然NECのシステムなんです。NECが面倒をみていた。

当時の現行業者であるNECの業務体制、技術者が何名くらいおられて、営業の方が何名おられて、ということを示す体制表なんです。

そういったものを、私が、NEC以外の入札に参加する予定業者の方に、メールで送っていたということが明らかになりました。

最終的には、価格とかでは全くなく、「体制表」を送ったことをもって、私が特定の業者を有利にしようとしたのではないか、という、嫌疑がかかったんですね。

そして、実際の入札の結果は、私が「体制表」を送った、その業者さんが勝ったんですよ。

通常、こうした情報システムの保守の入札は、情報システムを作った、入れた会社が取る(落札する)もので、それ以外の業者が取るって珍しいんです。

その珍しいことが起こってしまった、ということ。つまり、NEC以外が勝ってしまった。

それと、NECの「体制表」を、私が、その業者に送ったということ、ということが重なって、疑われたんではないか、と思います。

吉岡:「体制表」は、事情があって送ったんですか? それともアクシデントで送ってしまったものなんでしょうか。

桑田:事情があって、なんです。

私の記憶をひもといてみると、その入札に参加したのは、NECとダンテック2社だったんです。

入札の前に、ダンテックの社長さんから私のところに連絡がありました。

彼は、私が国循に異動する前から知っている方なんです。

彼が、私にコンタクトを取って来て、「NECさんが、いまやっている業務の体制を知りたい」と。「どういうエンジニア、要するに、どういう技術を持った、どういう(エンジニアの)専門分野で、どのくらいのレベルの技術者が、何人ぐらいで働いているのか」ということを知りたい、という問い合わせだったんですね。

入札にあたって、発注者側(国循)は、こういった業務ですよ、こういったことをしてほしいんです、と「仕様書」というドキュメントをつくって入札にかけます。それに業務内容は列挙してあるんですが、それぞれの業務がどのくらいのボリュームかは、書かれていない。

NECは現行業者なので、知っているんですけれど、新規に参入するほかの業者は知らない。

だから、どのくらいの業務量なのか知りたいんだろうな、と私は、考えました。

当時、私が持っている情報はすごく少なくてですね。私は、まだ直接業務を担当していなかったんです。次年度から私が担当することになっていたので。

年度の入れ替わりの手前の時期だったので、私が持っている情報と言えば、NECの「体制表」ぐらいなら提供できるよ、と、それでお送りしたという事実があったんですね。

吉岡:入札しようにも、どのくらいのボリュームかわからないと、うちはいくらで請け負えますよ、と言えませんよね。

そのためには、必要最低限の情報であって、特定の業者を利するような情報ではなかったわけですね。

桑田:それで何がわかるか、といえば、NECさんが何人でやっているかくらいなんです。

そういったところを検察は、それでも、私がわざとやったんだ、といって立件をしてきたということになるんです。

私が送った「体制表」というのは私自身は現行のものを送ったつもりだったんですが、NECが次の入札に備えて準備していた「入札資料」だったんです。

実は、NECの次の年の「体制表」だったんです。間違えて送っていたんですね。現行ではなくて、次の年のを。

吉岡:ああ次年度の、となると、相手の情報丸投げしてしまったということになってしまった。

桑田:さきほど、意味があって送った、と申し上げたんですけど、考えてみたら、ミスがあったことも、確かにありましたね。

毎年毎年やっている業務で、それを1年1年入札しているだけで。業務は全く変わらないんですね。NECの体制も、人数も何も変わっていないんです。

外形上、形式上、次年度に備えて出してきた資料、つまり入札の資料を、ライバルの企業に送ったじゃないか、ということを、とらまえて。

だからこそ、彼らは強気になって立件してきたんですね。

吉岡:大阪地検が実際に捜査を始めて、あくまで嫌疑を持って接してくるわけじゃないですか。そのとき、桑田さんは、どんな感想をお持ちになりましたか?

桑田:まず、彼らの人的なリソースの大きさに驚きましたね。ものすごい多人数。たかが私ひとりに。

もちろんダンテックさんも調べられているのですが、それに対して、彼らが20人近いチーム。検察官と事務官が束になってかかってくるわけですね。

彼らは、1日十時間以上、ずっと、私の資料であったり、国循の資料であったりを調べているんですよね。

検事は、司法試験を通っているので、頭もいいでしょう。そうした頭脳明晰な方たちが、束になってかかってくる。

しかも、さきほどおっしゃったように、私を有罪にする方向で話を詰めてくると言うのは、本当に恐ろしい、という感想を持ちました。

吉岡:ふつう、一般社会で生活していて、嫌疑を持って調べられる、もしくは、逮捕されるってないですもんね。

桑田:こういう目に遭ってみると、意外と、ないと思っていることも、実は起こるんじゃないかな、と思います。

つまり、我々は、安定した道の上を歩いているんじゃなくて、ふと気づくと、一本橋のようなところを歩いている。ちょっとバランスを崩すと落ちてしまうというようなところを、生きている、ということがよくわかりましたね。

私の場合も2014年2月に最初の強制捜査があったんですけれど、まさかそんなことが、という感じでした。

嫌疑を持って調べられているうちに、いろんな証拠を見せられるわけです。私のメールであったりとか、誰かが書いたり、作った資料であったりとか、を見ると、あのときもうちょっと状況を説明するメールを打っておけばよかったとか。

とにかく、あとで説明する、となった時に、自分はやってないので、やってないということを一生懸命言うんだけれど、それを、単なる言い訳としかとってもらえない。客観的なものがないので。

メールにこう書いてるときの気持ちは、と言ったって、それは、言ってるだけの話であって、やったことが何か形になって出ていれば話が早いし、説明の必要もないですけれど。

私の立場からすると、やってないこと、考えてないことを証明するのは難しい。

さきほどの「体制表」は、故意で送っていないんです。でも、間違いだった、ということを、説明するすべがないんです。

そこにカメラが回っていれば、とよく言われるんですけれど、私の場合、そこにカメラがあっても説明にはならないですよね、外形的には資料を送ってしまっているので。

自分がミスをして、そうしてしまった、ことを、証明するって本当に難しい。

吉岡:悪魔の証明なんて言いますよね。

桑田:不存在の証明。ありとあらゆる可能性を調べ尽くしたうえで、「ない」と言わないと、いけない。「ある」ことの証明は、ひとつ「あれば」すむんですが。

被疑者が無実、ないことを証明するのは非常にむずかしい。

そういう状況で相手が束になってかかってきて。

私の個人情報もさらけ出しているわけです。好きで出してるんじゃないですけど。銀行口座もお金の流れも、何から何まで。私が生まれてからの交友関係とかも全部、検察は調べているんですよね。

お前はこのときこういうことをしているんだから、こう考えていたはずだ、と言われても、「そうでないです」と、客観的な資料を持って説明することは、何もなければ、できない。実際、ほとんどない状況なわけです。

仕事の上で全部根拠を残して仕事をするって、業務の効率を考えると、普通の方はしないと思います。

もっとひどいことを言うと・・・入札の業務に関わっている中で、いろんな会議で決定しているようなところがあるんです。私が参加しているものもあれば、参加していない、もっと幹部の方、偉い方で決めているような会議もある。

この事件になっている入札も会議にかかっているんです。議事録もちゃんと残っているんです。そこに不正はなかったし、キチンとしてやっている、と書いてある。

ところが、意外と、そういう資料は、アッサリ無視されている。

私にとって、都合のいいことが書いてあっても、最後の最後まで(検察が)出してこなかったり、裁判の中で明らかになって、はじめてわかったこともあったり。

捜査を受けている段階で、自分は資料をすべて見ることはできない。

自分の限られた資源と、頭とを使って、やるというのは、無力だな、と思います。

本当に、これはシンドイ戦いだなと思いましたね。

(第2回目につづく)

 

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ソサエティサイエンスジャーナル第548回 ゲスト出演